デジタル発信の法務Q&A

【肖像権・プライバシー侵害Q&A】SNSで他人の顔や個人情報を投稿する際の注意点と対策

Tags: 肖像権, プライバシー侵害, SNS, 法的リスク, 個人情報

はじめに:SNSで他人の情報を取り扱う際の落とし穴

ブログやSNSで情報発信を行う際、写真や動画に他人の顔が写り込んだり、会話の内容や個人情報に触れたりすることは少なくありません。しかし、その行為が「肖像権」や「プライバシー権」の侵害にあたり、法的トラブルに発展するケースがあることをご存じでしょうか。

特に20代のブロガーやSNSクリエイターの皆様にとって、これらの権利侵害は身近なリスクです。今回は、肖像権とプライバシー権に関するよくある疑問に答える形で、具体的な事例と対策を弁護士監修のもと解説します。安心してデジタル発信を続けるためにも、ぜひこの機会に正しい知識を身につけましょう。

Q1:肖像権とプライバシー権とは何ですか?違いを教えてください。

肖像権とプライバシー権は、いずれも個人の人格に関する権利であり、密接に関連していますが、保護する対象が異なります。

両者の違いのポイント: 肖像権は主に「外見」の利用に関する権利であり、プライバシー権は主に「情報」の公開に関する権利と考えると分かりやすいでしょう。例えば、ある人物の顔写真が本人の同意なく公開された場合は肖像権侵害、その人物の連絡先や病歴が本人の同意なく公開された場合はプライバシー権侵害にあたる可能性が高いです。

Q2:友人の顔が写り込んだ写真をSNSに投稿しても問題ないですか?

原則として、友人の顔が明確に写り込んでいる写真をSNSに投稿する場合、その友人の同意を得るのが最も安全です。

同意なく投稿した場合でも、直ちに肖像権侵害となるわけではありません。判例では、肖像権の侵害となるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

例えば、多くの人が集まるイベント会場で撮影した写真に友人がたまたま小さく写り込んでいる程度であれば、侵害と判断されにくい場合があります。しかし、友人がメインで写っており、その友人の顔がはっきりと判別できる写真を、その友人に無断で不特定多数が見るSNSに投稿することは、肖像権侵害のリスクが高まります。

実践的な対策: たとえ友人であっても、プライベートな写真や顔が大きく写っている写真を投稿する際は、事前に「この写真をSNSに載せても大丈夫?」と一言確認を取ることがトラブル回避の基本です。

Q3:モザイク加工やスタンプで顔を隠せば、自由に投稿できますか?

モザイク加工やスタンプなどで顔を完全に隠し、個人が特定できない状態にすれば、肖像権侵害のリスクは大幅に低減されます。なぜなら、肖像権は「その人であると特定できる容姿」が保護対象だからです。

しかし、顔を隠したとしても、以下の点には注意が必要です。

実践的な対策: モザイク加工やスタンプは有効な手段ですが、それだけで安心せず、写真や動画の内容全体、および投稿に付随するテキスト情報も合わせて、個人が特定できる情報がないかを確認しましょう。

Q4:どのような場合に「個人情報」の投稿がプライバシー侵害につながりますか?

個人の特定につながる情報(個人情報)を本人の同意なく投稿することは、プライバシー侵害のリスクがあります。以下に具体的な例を挙げます。

たとえその情報がインターネット上で既に公開されているものであっても、それを改めてSNSで拡散したり、本人の意図しない形で公表したりすることは、プライバシー侵害となり得ます。

「よくある質問」の事例: * 友人のSNSアカウントを無断で紹介する際に、本名や勤務先まで記載してしまった。 * 街中で見かけた特定の人物について、写真と併せて「〇〇駅でいつも見かける、△△な人」といった個人的な感想を詳細に投稿した。 * 子どもの運動会や発表会の動画を投稿する際、他の子どもたちの顔が写り込み、名札が読める状態だった。

これらのケースでは、本人の同意なしに個人情報を公開したとして、プライバシー侵害を主張される可能性があります。

Q5:SNSで他人の情報を取り扱う際にトラブルを避けるための対策は?

法的リスクを回避し、安心して情報発信を続けるために、以下の3つのポイントを投稿前に必ず確認してください。

  1. 「本人の同意」は得ていますか?

    • 写真、動画、テキストの内容に関わらず、他人の顔や個人情報が含まれる場合は、必ず本人の明確な同意を得るようにしてください。
    • 口頭での同意も有効ですが、後で「言った・言わない」のトラブルになることを避けるため、可能であればメッセージアプリやメールで同意を得て、そのやり取りを保存しておくことが望ましいです。
    • 特に未成年者の情報を取り扱う場合は、保護者の同意も得るのが原則です。
  2. 「個人を特定できる情報」を含んでいませんか?

    • 写真の加工(顔にモザイクやスタンプ)だけでは不十分な場合があります。背景に写り込んだもの、服装、時間、場所などの情報と組み合わせることで、特定の個人が特定されてしまうリスクがないか、総合的に確認してください。
    • テキスト情報についても同様です。イニシャルやニックネームであっても、他の文脈と合わせることで誰のことか分かってしまうことがあります。
  3. 「公共の利益」や「報道目的」に該当しますか?

    • 一般的に、事件・事故の現場や公的なイベントなど、公共の利益に関わる情報として報道目的で撮影・公開される場合は、肖像権やプライバシー権が一部制限されることがあります。
    • しかし、個人のブログやSNSでの情報発信は、基本的に「公共の利益」や「報道目的」には該当しにくいものです。この基準を安易に適用しないよう注意してください。

チェックリスト:投稿前の最終確認 * [ ] 写真・動画に他人の顔が写り込んでいる場合、全員の同意を得ていますか? * [ ] 顔にモザイクなどをかけたとしても、服装や背景、周りの状況から個人を特定できる情報はありませんか? * [ ] 投稿テキストに、他人の氏名、連絡先、勤務先、学校名など、個人を特定できる情報を含んでいませんか? * [ ] デリケートな情報(病歴、人間関係、個人的な秘密など)に触れていませんか? * [ ] 友人間であっても、投稿内容が相手に不快感を与えないか、客観的に考えてみましょう。

Q6:もし肖像権やプライバシー侵害でトラブルになってしまったら?

万が一、肖像権やプライバシー侵害で相手方から連絡があったり、法的措置を検討している旨の通知を受けたりした場合は、以下の対応を検討しましょう。

  1. 冷静に対応する: パニックにならず、まずは相手の主張内容を正確に把握することが重要です。
  2. 投稿の削除・非公開化: 相手の主張がもっともだと感じられる場合や、法的リスクを最小限に抑えたい場合は、速やかに該当する投稿を削除または非公開にすることを検討してください。これにより、被害の拡大を防ぎ、相手との交渉を有利に進められる可能性があります。
  3. 証拠の保全: 相手からの連絡内容や、自身の投稿内容、対応履歴などを記録・保存しておきましょう。
  4. 弁護士への相談: 相手からの要求が不当だと感じる場合や、どのように対応すべきか判断に迷う場合は、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は法的な観点から状況を整理し、適切なアドバイスや代理交渉を行うことができます。

まとめ:デジタル発信における責任と配慮を

SNSやブログでの情報発信は、多くの人とのつながりを生み、自身の表現の場を広げる素晴らしいツールです。しかし、その一方で、他者の権利を侵害してしまうリスクも常に存在します。

今回解説した肖像権やプライバシー権に関する知識は、デジタル発信を行う上で非常に重要なものです。投稿前の確認を習慣化し、常に他者への配慮を忘れずに、責任ある情報発信を心がけましょう。これにより、自身の発信を守り、トラブルのない健全なデジタルライフを送ることができるはずです。